吹付け塗装とローラー塗装 塗替えはどちらがいい?
新築時は、 「吹付け塗装」という施工方法で塗装工事が行われます。
吹付け塗装とは、塗装の材料に砂などの骨材を混ぜて、躯体コンクリートやモルタル面にスプレーのように吹付ける工法です。
これで仕上がった塗装面が、よく目にする 「リシン面」 や 「吹付けタイル面」 などです。
その他にも、「スタッコ仕上げ」、「石調仕上げ」 など、吹付けでは様々な仕上げが可能であり、この多彩さが吹付け塗装の強みであります。
他にも、施工スピードが早いというメリットもあり、工期短縮が図れます。
これとは別に、「ローラー」 「刷毛(はけ)」を用いた工法もあります。
これらは、戸建て住宅の塗装の現場などで見たことがある方も多いでしょう。
ローラーは、ハンドル(持つところ)の先に付いたローラー(ちくわみたいなやつ)をコロコロ転がす道具で、大小沢山の種類があり、「平滑仕上げ」 や 「ゆず肌仕上げ」などの仕上げに用います。
一般的なローラーのハンドルは、ローラーを差し込むところの太さで大きく二つに分かれ、径が太いローラーを使用する際は、「VPローラーハンドル(ワンタッチ式という場合もある)」 を用います。
これに差し込むローラーは、広い面積を塗装する際に多く用いられます。
又、径が小さいローラーを使用する際は、「スモールハンドル」を用い、これに差すローラーは、一般的に狭い部分や小面積を塗装する、毛足が比較的短い場合が多いですが、大面積用の径が太く毛足が長いローラーを差す場合もあります。
ローラーの材質は様々で、塗料の粘度、下地の種類などで適切なものを使用します。
主に使われるのが、アクリルやウール(羊毛)などの材質を使用した「ウールローラー」と呼ばれるもので、平坦に塗装したり、下地の模様をそのまま生かして仕上げる事を目的にします。
下地が平滑面か、凸凹しているかで、毛足の長さも変わります。
大面積を塗りたい時、また表面の凸凹が顕著な場合や、粘性の高い塗料を使用する場合は、毛足が長いローラーを使用します。
ウールローラーが下地の模様を残すのに対し、弾性塗料や骨材入りの塗料を使用して模様を付ける 「マスチックローラー」 と呼ばれるものがあります。
このローラーは、ウールローラーと異なり、「毛」ではなく、ポリウレタンフォーム等の材質で 「スポンジ」状になっており、骨材入りの塗料やドロドロした塗料を内部に吸い込み、それを塗装面に転がすことで波状の模様を付けていきます。
感じとしては、「ちくわ」 よりも、「穴を開けたヘチマたわし」 といったところです。粗目のマスチックローラーを使用する事で 「さざ波」状の模様、細目のもので 「ゆず肌」状の模様で仕上げる事ができます。
刷毛は、木などの柄(え)の先に、沢山の毛がブラシのように付いた道具で、「平滑仕上げ」に用います。 毛の種類も様々で、豚、馬、羊などの動物の毛を使用しているものが一般的です。
マンションの修繕工事では、細く線状に塗装する場合や、狭い箇所、ローラーでは困難な隅(すみ)の塗装などで使用されます。
新築で使用される吹付け塗装は、ローラー塗装に出来ない様々な模様を付ける事ができ、手塗りのローラー・刷毛などより工期短縮が図ることができます。
しかし、修繕工事にはあまり好んで使われません。
なぜか― それは周囲への飛散が懸念されるからです。
マンションの修繕工事では、作業用の足場を設置します。
この足場の外側に、養生シートをいうものを張り巡らせて行きます。
このシートは、外部へのものの落下や、人の墜落を防ぐなどの役割の他に、塗料の飛散を抑制するという働きもあります。
「塗料を飛散させないのなら吹付けをして時間を短縮できるじゃないか」と思われる事でしょう。
しかし、養生シートは、「塗料の飛散を抑制する→ある程度防ぐ」 ものであって、「完全に防ぐ」 ものではありません。
もし、吹付け塗装を多量に行えば、養生シートの隙間から霧状になった塗料が周囲に飛散し、周囲を広範囲で汚染する可能性が高いです。
養生費や手間もばかになりません。
それに大量に飛散することにより、ロス(実際に塗装面に付着せずに無駄になる分)が非常に多いことも価格面でデメリットになります。 もったいないですよね。
しかも早くて簡単そうに見えて、実は施工する人によってはムラが多く出るので、その点でもおすすめできません。
この様な理由で、マンションの修繕工事の塗装は、ローラーや刷毛を使用するようにしています。
吹付けよりも時間が掛かりますが、周囲汚染の危険度、養生の手間、ロスの量などを考慮して、こちらの方が得策です。
あと吹付け塗装の場合、既存の塗装面の凸凹が顕著な場合、凹んだ箇所に塗料が入り込みにくいという欠点があります。こういう箇所でも、毛足が長いローラーや刷毛を使用することで、しっかり奥まで材料を行き届かせることができます。
修繕工事に適したローラーや刷毛ですが、吹付け同様、やはりしっかりとした職人さんがしないと、マスチック塗装も滑らかな 「さざ波」 にならずに、けばけばトゲトゲした 「時化(しけ)」 になったり、材料を理解せずにローラーを選んでコロコロ転がらずに「出来そこないの日本庭園」 を作ったりします。
刷毛での塗装も、「塗り付け → 均し → ムラ切り」 という基本動作があり、基本を理解して経験を重ねる事で、良い仕上げが出来る様になります。
又、いくら吹付け塗装よりも飛散がないからといって、全く飛散がないわけではありません。どれだけ飛散するかの量の問題です。
よって駐車場の付近や駐輪場の付近等の場合は、車両に養生カバーを被せるなどの処置が必要です。
修繕工事の際は踏んだり蹴ったりの言い方をしてしまった吹付け塗装ですが、全く吹付けをしないわけではありません。
コンクリート面やモルタル面の劣化補修の際、補修した部分は補修材の仕上げで 「平坦」 になっています。
このまま新規塗装をすれば、補修面だけ模様が違うという不格好な仕上がりになってしまいます。
これを改善する為、補修部分が周囲の面と同じ模様になるように、骨材入りの塗料や、粘度の高い塗料を吹付けます。 こうして補修跡を目立たなくしてキレイにします。
「塗ればいい」 という訳ではありません。 材料・工法をしっかり理解し、作業中も足場をばらした後も、「頼んでよかった」 といわれる工事をしましょう。