みんなが笑顔になれる工事を
あんな社員雇ってよく潰れないね お宅の会社――
同じ会社の現場代理人(A)について、私が居住者の方(Bさん)から浴びせられた言葉でした。
ある大規模修繕工事が始まったある日、会社に一本の電話が掛かってきました。
「あの人もう駄目だから。現場代理人を明日から変えてね」
工事をコーディネートした設計監理の人からでした。
続けて、「お客さんもうカンカンよ。なんでそんなに怒らせることが出来るのか、すごいわ。」
お客さんとは、マンションに住んでいる居住者のことで、どうやら駐車場の件でAと言い合いになったようです。 「 ・・・ 言い合い ・・・? 」
当然、工事を進める上で居住者の方々に不憫な思いをさせることもあるでしょう。
それらの事に関して現場代理人は、あらゆる手段を駆使して解決させなければなりません。
しかしそれを解決に導かず、顧客である居住者の方と言い合いになったと・・・?
同じ会社の人間として、とても恥ずかしい気持ちになったことを今でも思い出します。
現場に着き、代理人であるAに、事情を話して代理人を降りてもらう旨を伝えました。
そして「一緒に(怒らせた)Bさんに謝罪に行こう」といったときに、Aから返ってきた言葉は、「降りるのなら私はもう関係ないし。私が行ってもまた怒らせてしまうだけだから行きません」
そんな彼を置いて、ひとまず理事長のもとへ行き事情を説明し、Bさんへ謝罪に行くと告げると、「わざわざありがとうございます。私も一緒に行きます!」と言っていただいたのです。
小心者の私は、その言葉に甘え、理事長とBさんのもとへ・・・
Bさんは在宅されており、冷静に対応して下さいましたが、終始「怒り」と「不信感」を滲ませておりました。
設計監理者とAから、掻い摘んで事情は聴いていましたが、改めて聞くと、Bさんの無念が伝わってきます。
・ ・ ・
着工前に行った「工事説明会」の際、作業足場の関係で駐車区画が使えなくなる方々へ、
敷地内の空きスペースへの車の移動のお願いを、敷地図を用いて説明しました。
工事説明会には、代理人予定のAも参加しており、現場の状況を把握した上で挑んでいました。
・ ・ ・
そして着工後、Bさんが車を移動させる予定の場所には、今から組み立てる足場の部材が・・・・
BさんはAに詰め寄りました。
Bさん 「ちょっとどういうこと?」
A 「当初予定しておりましたあちらのスペースより、ここの方が妻側(建物四方の、
バルコニー面や共用廊下面と異なる、狭い二面のこと)の資材を置くのに良かっ
たんです。あちらのスペースにとめていただけないでしょうか」
Bさん 「そんなの関係ないわよ! あんな狭いとこにどうやって車持っていくのよ!」
A 「いやー いけると思うんですけどね」
Bさん 「できないわよ。こんなとこ通れる程運転上手くないの!」
A 「じゃあ どうしましょう」
Bさん 「どうしましょじゃないわよ! これ どけなさいよ」
A 「でもこれだけの資材を移動するのはちょっと・・・」
Bさん 「あんた何言ってるの? 私は車をどうしろっていうのよ!」
A 「どうしましょうか?」
Bさん 「 ・・・ 代わりの駐車場を外にでも手配出来ないの?」
A 「あー、いいですね。どこか駐車場ありますかねー」
Bさん 「 !!!! 」
我々施工者側に反論の余地は無く、只々Bさんと理事長に平謝りするばかりでした。
冒頭の言葉は、この時言われたものでした。
「あんな人間がいるくらいだから会社も大したことないよね。 ちゃんとした工事出来るの?」
たった一人の人間の過ちや安直な考えが、会社全体の信頼に影響する瞬間です。
本当に会社の事、マンションの事を考える事が出来れば、Aの様な態度は出来ないでしょう。
Aの例は極端ですが、他のマンション(自社が工事に入った所も、他社が施工した所も)でも、居住者や、管理会社の方々から工事後の不満を度々聞く機会があります。
「工事後の清掃がきちんとなされてない。」
「なんか愛想がなくて怖かったね、工事の人達。」
「網戸が動かなくなったんだけど、直せる?」
「仕上がりは本当にこんなものなのかな・・?」
工事後に聞かれる声の一部ですが、
どれも「工事関係者が、そこに住んでいる居住者の立場になって考えれば起こらない」事例なのです。
当時、工事会社の営業という立場にいたサイト管理者は、アフターで伺うマンションや、他社が施工した後のマンションを伺う度に上記の様な声を聞き、どう見てもよろしくない仕上がり等を目の当たりにし、「実際に現場に入ってみないと、何が起こっているのか分からないな」と判断し、会社と設計監理者の許可を得て、前途のマンションで現場代理人を務める事となりました。
過去に小さな賃貸マンションの改修工事を任された事はありましたが、分譲マンションの施工は、それらの工事とは比べものにならない程の思慮が必要でした。
現場代理人の皆様、作業従事者の皆様は、本当に意義のあるお仕事をされているのだということを、改めて感じました。
そして大規模修繕工事の現場代理人として現場を収めた結果、分かったことはやはり、
「工事関係者が、居住者の方々の気持ちになって施工しないといい工事は出来ない。」
という事実でした。
工事全般に対する姿勢、居住者の方々への対応、施工材料に関する知識、そしてこれから永年お住まいになる方々への配慮。
それらをとことん追求し、建物だけを相手にしているのではなく、人の心も相手に仕事をしているのだということを、工事関係者は常に意識し、実践していくべきです。
私が初めて現場代理人として管理したその分譲マンションは、色々ありましたが無事に竣工を迎え、工事が終わる間近は、「あんたがいなくなるのは管理人さんがいなくなるみたいで寂しいわ」 「どんどん工事の養生がなくなっていくのが切ないねー。(仮設)事務所は置いといて、あんたそこに住んでたら?」等の有難い(?)お言葉も頂きました。
前途のBさんも、こんな私に打ち解けて下さり、差し入れを頂いたり、ご自宅でコーヒーとお菓子を御馳走して頂いたりもしました。
Bさん曰く、「あなたや職人さんの対応をみていたら、きっちり収めてくれるのは分かる。自分が住んでるみたいに考えてくれてるからね。」
私と同じことを、Bさんも感じていたのでしょう。おそらく、Bさんやこのマンションの居住者方のみでなく、大多数のマンションの居住者の皆様が、同じ思いを抱くでしょう。
それともう一つ、
大規模修繕工事が終わりに近づいていくにつれ、工事においての達成感を覚えていくのと同時に、漠然とした満足感が体を満たしていくのを感じました。
「なんだろう、これは・・・?」
徐々に分かったのですが、それは 「居住者同士のつながり」 でした。
初めの頃は、工事の進め方や施工の方法等で意見を対立していた方達、また、以前から何かといざこざが絶えなかった方達(他の居住者の方が色々教えてくれます)、そんな方達も含めて、マンションに関わっている方々が、工事を通して 「 ひとつ 」 になってゆく。
工事を進めていく中で、段々と居心地が良くなっていくあの感じは、なにものにも替え難い大事なものといってしまっても過言ではありません。
もちろんマンション内、近隣との全ての人間関係がすべていいようになることはないように思えます。
長年の人間関係は、そう簡単に変わるものではありませんから。
それからも自社、他社問わず、大規模修繕工事やその他の工事をみてきましたが、自分サイドの考えを優先して居住者の気持ちを考えられない工事関係者が関わったマンションの居住者からは、気持ちのいい声はあまり届きませんでした。
反対に、居住者サイドの考え方が出来る様になった代理人や職人さんが入った現場での工事中、又は竣工後の反応は良く、管理組合からの評判も上々でした。
また成功する工事では、やはり工事が終わった後の副作用として、今までになかった 「つながり」 が生まれていた様に思えます。
しかし、マンションは全国に多数存在し、大規模修繕工事もそこかしこで行われています。
そしてそこに住まわれている方々、並びに近隣の方々への配慮を欠く工事が行われているマンションは、一つや二つではないと思われます。今まで積み立てて来た大事な修繕積立金を無駄にして欲しくない、工事中も工事後も「みんなが笑顔でいられる」そんなマンションを増やしたい。
又、居住者の皆様に 「笑顔を提供する」施工会社を増やしたい。そんな気持ちで、当サイトを立ち上げました。
記事は、私の経験と他の現場代理人や作業員の話、会合等で会う機会のある他社の工事関係者の意見、材料メーカーや問屋の見解、又、なによりマンション居住者の方々の感じている事を元に作成しています。
「自分の考えと違うな」、「それ少し違うのでは・・・」等、皆様のお考えもあると思いますが、あくまでサイト管理者である私と仲間の主観も入っていると思われます。そこはご了承下さい。
時間をかけてでも記事を増やしていきたい、読んでいただいた方からの声や有用な情報なども、出来うるかぎり載せていこうと考えておりますので、よろしくお願い致します。
工事を終えた後、皆様のマンションが建物の価値、そして 「それ以外の価値」を上げることに成功し、少しでも多くのマンションや近隣の方々が、「工事をして本当によかった」 と心から思う事ができ、さらに副作用として「みんながつながる」という幸せを感じられることを切に祈念致します。